お菓子工場のバイトの話
大学の時(前半)、私はヨットという過酷なスポーツをやっていました。
2月〜11月まで、毎週金曜の夜に集合、日曜の夜に解散。
朝6時に起きて昼休憩1時間弱をはさんで夕方までひたすら動くので、
さすがに日曜の夜に家に帰りついてから何かをする気力なんてなし。
そんなんで雇ってくれるバイトも、ほぼなし。
おまけに夏は1ヶ月以上、合宿生活。
なので、週1の家庭教師のバイトや、単発の派遣をしていました。
私が使っていた派遣の会社は今はなきグッドウィルです。
急に「明日お金欲しい」って思っても仕事をまわしてもらえたりしたので、
かなり便利でした。
そのなかで私が気に入ってよく行ってたのが、
お菓子工場のバイト。
その工場は小田急江ノ島線の某駅からバスで行く、かなりさびしいところにあります。
大手コンビニにも卸すお菓子、主に生菓子をつくっていました。
そこで私は一日中、バナナを刻んだり、流れてくるケーキにイチゴをのせたりしてました。
19歳の、慶応大生が。
私はなぜかそういう作業が合っていたらしく、ものすごい速さで作業をしていました。
動きのいい派遣が何人か集められて残業(すごい割がいい)を頼まれるのですが、
私はいつも「グッドさん、残ってもらえる?」と指名されていました。
グッドさんて。
妄想癖があるので、妄想をしながらでもできる作業というのはとても気楽で、
あまり人と関わらなくていいのも好きでした。
マスクをしながらの作業なのですが、高校生に
「ねぇどこ高?」と聞かれたりもしてました。
(^ν^)<おまえどこ中?どこ中よ〜?
で、若かりし私がそこでわかったことがいくつかあります。
まず、ものすごく簡単な作業でも、おぼえられずにあたふたする人がいるということ。
印象深かったのが、中年(といっても40前くらいかな)の男性。
本当〜に動きが遅くて、他の人のフォローなしではその工程がストップしてしまうレベル。
私は妙に、切なくなったのをおぼえています。
今まで中高と私立にかよっていて、大学もいいところで。
私のまわりには、致命的に「できない」人がほとんどいなかったんですよね。
不真面目な人はいたけれど、できない人っていうのは、見当たらなかった。
失礼な話だけれども、私は工場のバイトを通して、一つの結論にいたりました。
「ここで一日中、一生、働くようにはなりたくない」
ということを。
それは件の男性の存在を見たからというわけではないのだけれど、
なんだか強い場違い感を感じたんです・・・。
ものすごく失礼な話なのは承知でいうと、いくら気楽でも、なんだか虚しかった。
替えがきく作業を淡々とこなしていくのは。
多分ね、こういう考えじゃないと勉強なんて、努力なんて、できないと思う。
根幹に、「こうなりたい」という信念があるのは大切、
それと同時に「こうはならない」という逆目標があったほうが頑張れるんじゃないかなと、
率直に、そう思います。
私はこの後、大学院を出たあと門外漢の分野で数年かけて資格を取り、
某試験に向けて勉強し続けることになりました。(二度目でなんとか受かりました)
こんな馬鹿みたいなこと、そこそこの気概がないとできないと思うんですよね・・・。
その一方で、 単純作業をする人、知的生産をする人。
両方必要なのだということも、痛感しました。
自分が普段なにげなく買っているコンビニのケーキ。
その裏側でちょびっとだけ働いてみて、考える機会が持ててよかった。
お嬢様育ちの私には、工場のバイトは必要なものでした。
***
冬の、寒い寒い日。
私は一日、コンベアで運ばれてくるケーキにいちごをのせたりチョコをのせたりして過ごしました。
外に出ると雪が降っていて、パンプスで来た私は心の中で絶叫しながら帰りのバスを待っていました。
携帯を見ながら。
当時大流行していたmixiをチェックすると、たくさんの投稿がありました。
「ケイコと雪だるま♡」
などと彼女と雪だるまをうつした写真・・・
「こいつまじ馬鹿w」というコメントつきで
友達が雪の上で寝転がる写真・・・
「今日もなぜかマサトと大学にいますw」という自虐風の写真・・・
私がひたすら窓もない工場で甘い香りに包まれて果物と戯れている間、
みんな・・・
みんな・・・
私はもう二度と、このバイトにはこないぞと思いました。